長嶋南子『猫笑う』
(思潮社、2009年9月28日発行)
日に何篇かずつ読んでいきました。
しみる詩です。せつなくて、けなげで、しゃんと背をのばそうとして
そんな人のこころの詩です。
おれはこの人の詩がすきだなぁ。
きっと、ずっとまえからこの人のことを知ってたような、
そんな気がしてくるんだよな。。
詩をよんでいると、詩人が近しい親しい人に思えてくる。
長嶋さんの詩はそんな詩なのです。
泣きたくなるような晩年を、いつかこのように
気高くやさしく生きて暮らしてゆけるのでしょうか。
この詩集の詩はゆっくりと読みます。
すこしよむたびに、泣きそうにふるえがきたりします。
ひとは孤独にまけないものだよ、ふんばってれば と
あったかいことばをかけてくるのです。
冬至 長嶋南子
布団から顔を出して寝ているのは
おばあさんとおばあさん猫です
おばあさんはきのうまでおかあさんと呼ばれ
もっと前には娘さんともおねえさんとも呼ばれ
もっともっと前にはミナコちゃんと呼ばれ
あさってごろにはホトケさんと呼ばれるのでしょう
いまでは生まれた時からずっとおばあさんで
猫と暮らしていたような気がします
おばあさんはいつも猫に話しかけています
猫だって話しかければちゃんと返事をするのですよ
おばあさんの隣にはきのうまで
夫と呼ばれる人が寝ていました
夫はおとうさんともアンタとも呼ばれ
いまでは「あのひと」といわれて
押し入れのなかに骨をたたんで眠っています
猫はおばあさんの右腕を枕に
ゴロゴロのどをならしながら
おばあさんの顔をなめまわしています
すっかり年をとって猫はシソーノーローになって
くさい息を吐きかけます
むかしはにゃん子と呼ばれ
あさってごろには化け猫になって
おばあさんの布団に入ってくるのでしょうか
いまにも降りそうな夕方
女手ひとつでは薪割りも大変でしょう
と遠くからよそのおじいさんが通ってきました
あまり遠いのでおじいさんは家に帰れなくなりました
二人で寝れば暖かくなるからといって
布団に入ってきました
おばあさんは猫になって
よそのおじいさんの右腕を枕に寝ています
隣に寝ているおじいさんを
なんと呼べばいいのかもじもじしています
目覚めると
隣にいるのはいつものおばあさん猫でした
くさい息を吐きかけながら
おばあさんの右腕を枕に寝入っているのです
雪が降ってきました
文/編集子