手にとろうとすると、はかなく消えてしまいそうな感覚。
たった一言つぶやいただけで、遠ざかってしまう心。
そんな事象を、
詩は、それでもあえて、
言葉で言い表わそうとするところがあります。
詩とはそういうものだからこそ、
何とも言いようのない感覚や、もうわからなくなってしまった心を
言葉にできるときが、あるんだと思います。
松下育男という詩人は、
もしかしたら、彼自身がはかなく消え入りそうで
わずかな気配にも遠のいてしまう姿をしているのかもしれません。
つかまえようとすると、するりとすり抜けてしまうような
言葉なのに言葉じゃないような、
感覚よりも、心よりも、
こんな詩を書いてしまう詩人の手つきのほうがよっぽど
はかなく、あやふやなまま、それでいて
何にもゆるぎない、勁さをもって
純粋な詩を純粋に書いてしまいます。