まど・みちお作詞の「ふしぎな ポケット」や「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」「一年生になったら」など、どれもなんてことないような歌でいて、よくよくかみしめてみると、じんわり深く、言葉の奥行きが感じられてきます。
ビスケットをいっぱい食べたいな、という気持ちが朗々と表わされるこの詩では、おやつが好きなこどもの気持ちがユーモラスに捉えられていますし、また、ちょっと見方を変えてみると、飢えとも飽食とも書かれていないのに、受け取るこちらの読み方しだいで「ふしぎな ポケット」なるものに対する印象はさまざまです。
そうした歌詞として有名なもの以外にも「リンゴ」や「地球の用事」など、数々の詩を生んだ、まど・みちおですが、98歳のときに発表した詩集『うふふ詩集』で、こんな詩を書いています。
「ワカラン/ということがワカル」詩とは何でしょう。意味はワカラン、でも正体はワカルということでしょうか。「見ても見えんで/ナンにもない/のが/大傑作」と続きますが、これは言い換えれば、ワカルけれどもワカラン詩。そしてこのワカランとは、ワカランということさえワカラン詩ではないでしょうか? 詩の意味はワカル、でもワカルはずなのにワカラン、そしていつしかナンにもないという詩の姿を、まどさんは追い求めたのでは、と想像します。
まど・みちおの詩には、書かれた言葉の意味を汲んでも汲みきれない、沈黙の底の深さを覚えます。いくらわかったつもりになってもなお、とらえきれない謎がしん、と読後に残ります。意味でもなく、イメージでも暗示でもなく、沈黙にぴったりと寄り添われて際立つのは、言葉そのものの不思議さかもしれません。