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詩じゃない日の暮れ方 7

結成じゃない日の暮れ方

花本武

 世界は言葉でできている。と誰かが言ってそうだ。言葉をいろんな風にこねくりまわして人類は歴史をつくってきた。そういう大袈裟なところから今回ははじめてみたい。
 言語は多様だ。いろんな国の言葉がある。言葉をゼロから発明しようと試みた例もあるし、美術家、会田誠さんの子息、寅次郎さんは、人工知能に言語を発明させるイノベーションに注力すべきではないかと提唱している。らしい。おもしろそうだ。
 言葉がなんのためにあるのか、人それぞれ考えがあるだろう。他者との理解を深めるためのツールとして重宝される。ことも多い。
 一方で残念ながら言葉が暴力として機能してしまうことも多々ある。使い方は自由なはずだがマナーと節度を持たないといけない。仲の良くない隣国のことを罵る言葉にうんざりしている人。多いでしょう。
 『和解のために』という本がある。アカハネは突如、この本を朗読したい。と言い出した。アカハネというのはワンクロースのリーダーである。
 ワンクロースというのはついこないだ結成した主に路上での朗読を活動の芯に据えるグループである。リーダーのアカハネに私とエノモトというメンバーで構成される。準メンバーとしてイラストレーターのイノをむかえている。
 もともとワンクロースというバンドをエノモトがやっていたことにネーミングが起因している。ださくて、かえっていいんじゃないか、という価値観。それが本当にださい。そういう可能性を追求したいような気もしたので、ワンクロースがメンバーも様相もガラリと変えて再結成したというような形をとった。旧ワンクロース、エノモト以外のメンバーがどう思うか考慮することは、あんまりなかった。
 私は朗読がかなり好きだ。なぜなら簡単だからだ。簡単なものを愛している。簡単にできることだけをして人生に終止符を打ちたい。とすらおもっている。
 だからアカハネからの誘いを受け、ときめいた。おれにもなんか読ませろ。
 『和解のために』は韓国の人が書いた本で、たぶん和解をするための本だろう。と推測するしかない。読んでないから仕方ない。政治。
 政治が私は苦手なのだ。その理由はちょっと難しいからかもしれない。だから一所懸命新聞を読んだりして勉強するのだが、身にしみてこない。重みを感じる場面が少ないからか。例えば戦争でヒドイおもいをした人、している人にとって私のような感覚は、皆無だろう。
 アカハネは若い。なんで『和解のために』を路上で朗読したくなったんだろう?興味はあるけど特にどうだってよくて、とにかく良いものだとおもって浸透するといいな、くらいにおもったんだろうなあ、とおもっている。
 アカハネとエノモトは出版社勤務で私は本屋勤めだ。
 三鷹で活動方針を詰めるための最初のミーティングを行うことにした。夜、いくつかの高層マンションの間を縫うように歩いて、焼鳥屋のテーブルについた。
 夏だった。適当に更けていく。高揚感があるのだがそれを全開にするのが少々照れる。少しのアルコールパワーで、場が盛られていく。三人ともにあれ読みたい、これ読みたい、こんな読み方をしたい、ここでやりたい、とか言ってた気がするがほとんど覚えていない。
 せっかく三人いるし、それじゃあ、このあと路上朗読を早速やったろうかい、という流れになった。楽器とかを持つバンドだとなかなかこうはいかないから、やはり私はこのノリを使えることに魅了される。
 三鷹駅前、バスロータリーを見降ろす歩道橋の片隅。三人いるおかげで、一人読んでるあいだの聴衆を自動的に二人確保できて便利だ。
 ワンクロースのプレライブ。
 アカハネは日本国憲法の九条を読んだ。私も読みたくなったので講談社学術文庫『日本国憲法』を借りて読んだ。
 エノモトがセットリストを持ってたような気がするが、まあこうゆうのは一期一会だから特にここに付記するもんでもないだろう。
 三人交代しつついろいろ読んだ。二人は朗読するための本を用意してきていたようだ。はなから今夜決行を見越してたのか。自分が一番血気盛んなメンバーかとおもってたけど違った。
 エノモトは文藝志向。アカハネは読みたいものがたくさんあるようだ。自作にも意欲を見せている。私は無性にボードレール『悪の華』を読みたくなった。
 我々は言葉をどこに届けたいんだろう?
 発声することを欲望しているだけなのかもしれない。
 三鷹駅の利用者たちがいて、ワンクロースがいる。その空間がなんだかおかしくて仕方がない。詩の言葉と政治の言葉が交差して、互いに補完し合う。おお、ものすごいことだ。
 ワンクロース。次は中野でやろう。

profile

花本武(はなもと・たけし)

書店員。1977年生まれ。東京都武蔵野市在住。
本と本屋と詩を愛好してます。

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