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詩じゃない日の暮れ方 5

衝撃的でない日の暮れ方

花本武

 衝撃的なことを言う人がたまにいる。例えば「芸術は爆発だ」と言った岡本太郎。爆裂な発言だけど、太郎が言うのだから説得力があるというものだ。爆発しない芸術があっても当然良いんだけど、そんな常識こそ爆発してしまえ、とさらに目をむいてたたみかけてきそうです。
 では詩は爆発だろうか。谷川俊太郎さんが「詩は爆発だ」と言ったらどうか。すごくイヤだし、圧倒的に間違っている感じがする。別に谷川さんである必要はなくて、田村隆一でもイヤだし、宮沢賢治ならなおさらだ。
 詩は爆発に向いていないのでしょうか。爆発的な詩。なかなか出会う機会がないのが爆発詩だ。ふと思い当った近年の爆発詩は、歌人の穂村弘さんによる「獣姦だー」ってやつじゃなかろうか。申し訳ないのですが、うろ覚えで書いてますので、「獣姦だー」と「だー」って書いてたか確認してないのですが、ともかく「獣姦」を連呼する詩があったはずだ。
 「獣姦」って言葉のインパクトは、そのまわりに配置された言葉全てを無効にする感じがして圧倒的だ。なんというか卑猥だからじゃない。繰り返すことで、神聖にすらおもえてくるけど、それは言いすぎかもしれない。ともかくバタバタと言葉がなぎたおされてゆく面白さがあって好きな爆発詩だ。
 しかしながら詩はやっぱり一人一人の耳元にささやくようなやつが向いてるなあ、とおもう。詩集という形で一冊にまとまった本は、それは素晴らしいものだ。そのなかの一篇をあなたが大事にしているその一人の人に読んできかせることが出来たら、素晴らしさはいっそう輝くような気がしますね。
 衝撃的なことを言う人って話にもどりたい。先日訃報のあった高倉健さん。「不器用ですから」という言葉がある。出典が分からないし、本当にそんなことを言う人がいるのだろうか。何らかの劇中でのセリフなのだろうか。
 さっきから読んでいると、私という書き手はぜんぜん調べないで書いてるんだな、とおもわれるかもしれない。(おもわれてなかったらそれはそれでいい)なぜ調べないのか。調べてしまうと、だいたいがつまらないからだ。思い込んでるがよく分からない何かがもしあなたにもあるのなら、それを調べない権利を放棄するな、と言いたい。それでもしも間違いを指摘されるようなことがあったら、とりあえず頭を下げよう。
 それはさておき、健さんの言葉だ。これほど不器用であることが魅力におもえる言葉があるだろうか。ああ、不器用でもいいのか、なんだそうだったのか…とかつて起こした不器用ゆえの失敗を全てご破算にしてくれるようだ。仕事が上手くいかなくたっていい。だって不器用なんだから。
 というところからアクロバティックにまた詩における「不器用ですから」を検証したい。不器用な詩。そういう存在についての考察だ。寡黙であることが不器用なのではない。言葉数がすごいのに不器用な詩。おお、それは読んでみたいな、とおもえる。だれかそういう詩、知りませんか?自分で書いてみようかな。でも演じられた不器用ほど奇形なものもなかろう。見苦しい。伝えたいことがたくさんあるけど、その術をもたない。そんなあたたの詩が読みたい。不器用で饒舌な詩はそこにあるはずだ。
 ラブレターを読んだことがない。もらったことがないし、書いたことがない。いや書いたことはあるけど、ない、ということにしておきたい。文豪の恋文、みたいなものは、読んでいるかもしれないが、市井のラブレターを読みたい。だれか読ませてくれないだろうか。そこにぎっしり詰まってそうじゃないですか。不器用で饒舌な詩が。ラブレターを書いて、いいものが書けた!と興奮して一夜明けたときに読み返して、かなぐり捨てる、という風景がある。フィクションでは常套的であり、実際に世界中でそのような風景は立ち上がっているのだろう。私が今読みたいものは、そのゴミ箱のなかにある!!
 地味に衝撃的な言葉に、イラストレーターで絵本作家のヨシタケシンスケさんの奥様による「しかもフタが無い」がある。スケッチ集のタイトルにもなっている至言です。ヨシタケさんが居間でテレビを観ていたら、キッチンから聞こえてきた奥様の言葉を採集したようです。冷蔵庫をのぞきこみながら発せられたこの言葉のそこはかとない面白さはどうだ。爆笑したり、感嘆したり、おもわず唸るようなものでもない。それを最初に聞いたヨシタケさんもこの言葉の面白さに気がつくのには時間を要したのではなかろうかと、勘ぐる。
 詩人は地味だ。派手な詩人がいたっていいのは、これまた自明なわけだけど、あまりお目にかかる機会がないし、少し嘘っぽいじゃないか。派手な詩人なんて。(偏見です)好ましいのは、地味さにおいて、派手になってしまった詩人だ。あんまりにも地味であるがゆえに唯一無二の個性を際立たせる。はらのなかで変なことばかり考えてるが、それがなかなかバレない。教室の片隅にそういう詩人予備軍が密かに棲息していたはずだ。先生たちの仕事の本分はそれを発見することにありそうです。詩人人口ボトムアップの鍵を持っている人は、有効に使っていただきたい。
 またとりとめのないことをいろいろ書いてしまった。それもこれも詩がもっともっと読まれ愛されるようになって、ひいては本屋に詩歌の棚が充実して、詩人が職業としても成立するようになったりしてほしいからです。友人のMさんがポエトリースラムの全国大会を催したいと言い出した。ポエトリースラムというのは、詩の朗読を競技として楽しむ大会だ。それが盛り上がるかどうかは、二の次。詩でわくわくさせてくれる。このホームページ「詩学の友」もそうだ。私も地味にその一端を担いたいのだ。

profile

花本武(はなもと・たけし)

書店員。1977年生まれ。東京都武蔵野市在住。
本と本屋と詩を愛好してます。

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