photo by ©Kiki

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ゆれながら
ひじょうに　刹那的に
歌をうたい　スカートをつかみ
何か　おしえ合ったふうな調子で
言葉にならない言葉で
わたしたちはよく話し合った
やばいよね
やばいよ
ホントにね
生きていけると思ってた


　水平線はひとりっきりで
　その感触をおぼえている


風が　体を通り
眼を開ければ
かろやかに魚を食べる
大人の男や　大人の女の姿がみえる
フォークを持っているのね
反射するひかりのくずね
涼しげな

　（「かわいい波」　より全文）

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　「かわいい波」は友人たちのなかでも特に人気のある一編だ。まだ完全な大人でもなく、かといって子供でもなく、あこがれは、すぐ手の届きそうな場所にいつでもあった。そんな狭間の一瞬が波しぶきに反射している。

　わたしたちは同い年で、ポエティックフリーというイベントのスタッフを一緒にやった縁で仲良くなった。一緒に名古屋にも行ったし、たくさん飲みに行ったし、イベントが終わってからも卓球をしたりボーリングをしたり、とにかくよく遊んだ。今こうやって、思い出と、彼女からもらったテキストや贈り物を抱えて、でももう二度と会うことができなくて、なんだかもう、永遠の片思いをしているような気分になってくる。

＊

晴天の下
家でニワトリを
焼いて食べてきたガールフレンド
きみを置き去りにして
氷の上に出てきた
きみのガールフレンド
その唇の健康さに
ぼくは見とれているんだよ

だからぼくが冬にやることは
きみのガールフレンドを連れて
街の真ん中にあるスケートリンクの
氷の上をすべることだ
きみのガールフレンドに向かって
かわいいねって言うことだ

　（「スケートリンク」　より）

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　この「スケートリンク」という詩も、ちょっと特別な感じのする大好きな作品だ。「“きみ”のガールフレンドと氷の上をすべる」という物語は、表には一度も出てこない“きみ”へ向かって終始展開される。そしてなぜか、このガールフレンドは家でニワトリを焼いて食べてから現れるのだ。な、なぜ！？

　ここでもしかしたら、フランスの作家、ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』（新潮社版では『日々の泡』）を思い出される方もいるかもしれない。わたしはつい先日、光文社の新訳シリーズでこの本を読んで、鳥男の出てくるスケートリンクのシーンで、謎に満ちたこの詩が初めて腑に落ちたのである。もちろんそのままの情景が展開するわけではないし、彼女がこの小説を読んでいたかもわからないので、断定はできない。けれどわたしの中で、混乱に満ちた青春の日々の苦さや、そこに射す光とその陰影などがこの詩に加わったのは間違いない。

　過去の詩に、こうやって新しい出会いのような発見があって、喜びと同時に、これからも少しずつ、何かが変わっていくのだろうと思うと少し戸惑いも感じている。それにしても、息を止めてしまうような、切ないラストだ。

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