みんな詩人になればいい
田川登美子
ナナオが言った「みんな詩人になればいい。」
ナナオサカキという、多分・・結構有名な詩人がいた。
(うちの市の図書館には彼の数冊の詩集がある。)
足を悪くして世界に呼ばれたりして旅に出づらくなって、
ボケちゃうんじゃないか?とか不安がよぎるギリギリに、
まだ若いのに、ぽっかり上手いこと死んじゃったけど、
なかなかカッコイイ人だった。
お葬式で改めて人から聞いたのだけど、
妻が世界に3人いた。
(まぁ具体的にどんな存在なのかは分かりませんが。。)
自分の子どもや孫の話を何回か聞いたことがある。
海外からお嬢さんが来日するときとか、すごくうれしそうだった。
そういえば、私より10才は若いだろう日本人の息子さんが
「あなたの子どもに産まれてよかった。」
そうお葬式で言っていたな。。
ひどくワガママだったとかもお葬式で聞いた(笑)。
でも、いつも私には優しかった。
食器の上げ下げなんてしない人だって、ホントかウソか後から噂話で知ったけど、
うちには2人子どもがいたからなのかな??
いつもナナオはいそいそと手伝ってくれた。
さすが詩人で、客の有り様というのを心得ていて、
見事に邪魔じゃなかった。
いつも絶妙なタイミングで気配の強弱を察していた。
ただ私とも気があったのかもしれない。
ナナオが来てくれて、すごくうれしい〜!ってことじゃないけど、
家族が帰ってくるみたいな気持ちでいた。
ナナオがよく言った。
「みんな花や木、鳥の名前をしらなさすぎる。」
・・確かにそうだと思った。私も知りたいと思った。
ナナオがよく言った。
「みんな詩人になればいい。」
・・ふ〜んって思った。自分の中でその言葉の意味がぼんやりしたままだった。
私はその頃、下町暮らしだったのもあって、
下町の家々に干された洗濯物の光景に魅了されていた。
ちょうどその頃、ある写真館の通信を手描きでバイトで作っていた。
それで、盗撮ギリギリな(いや大丈夫なはず?w )写真をとり
それを毎回通信にのせていたもので、
ナナオに見せたことがある。
「これはおもしろくはあるけど、芸術じゃぁないね。」
・・まぁそうだよね〜と思った。
いろんなきっかけと流れでここ数年で、
詩(に結果なってしまうもの)を書くようになった。
正直言うと、詩は結果にすぎないんだけどな。
別に特別詩という形が好きでもないかな・・馴染みはあるけど。
まぁその説明は次においておいて。
ナナオは「みんな詩人になればいい。」って言った。
ちゃんとその言葉の意味を聞けばよかったな。
私は多分詩人にはならないけど、
ナナオからその一言を何度か聞いていたことで、
詩というものが愛着のあるものになった。
少なくとも、ナナオが詩人であったことで
世界中を旅出来たように、
私が何か誰かの幸せを想って書くことで、
私も自分の人生を旅するくらいは出来るだろうかねぇ、ナナオ?
ナナオサカキ(ななお・さかき、1923-2008)について
日本、世界を放浪者として旅した詩人。1960年代後半、新宿で山尾三省や長沢哲夫らとコミューン「部族」で行動を共にする。世界放浪の中、アレン・ギンズバーグ、ゲーリー・スナイダーらビートニクの詩人と交流する。著書に『犬も歩けば』(野草社、1983年)、『地球B』(スタジオリーフ、1989年)、『ココペリ』(スタジオリーフ、1999年)、「ココペリの足あと』(スタジオリーフ、2010年)ほか多数。
田川登美子(たがわ・とみこ)
アースガーデンの設立者の一人。イベントを通してさまざまな出会いの場を作る。18才&11才の男児の母。
→とみこのにわ
→登美子の部屋