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「詩学」のころ

甲田四郎

 私が詩を書き始めた一九七〇年三十四歳の頃知った詩の雑誌が「詩学」で、本屋で立ち読みして、詩学研究会のトップに高校生の池井昌樹の「ももいろの昼幻想」があって選者が山本太郎だったのを思い出す。一度詩学研究会に投稿したがボツ、電話で(大西さんか)東京詩学の会に誘われたが土曜の昼では店を開けられないのでそのまま過ぎた。五十歳の頃は村田正夫の「潮流詩派」にいて冬京太郎と「垂線」を出して仲山清の「鰐組」に書いていて詩集も三冊出していた。
 忘れもしない五十二歳一九八八年八月、突然「詩学」編集の篠原憲二さんから電話があって、十一月号に私の小詩集を組むから書いてという。驚いて精進潔斎して期限一ト月で五篇書いて送った。猿田長春さんの推薦かと思った。猿田さんは詩誌「にゅくす」同人で私の詩をホメてくれて、私は合評会に誘われて出たりしていた、一方東京詩学の会という、詩学本誌には載らないが「詩学」の詩作研究会のチューターを長年やっていて、「詩学」の顔のような存在だった。
 そしたらその十一月こんどは詩学研究会の選者をしてくれと言われてもっと驚いた。「詩学」に投稿してきた詩を選者四人と社主嵯峨信之さんとで合評するのだ。山本太郎がやったことをやるのだ。メンバーを聞くと鎗田清太郎さん井坂洋子さん岸野昭彦さん。こういう人と同席してしゃべるのだ、ビビった。どう話をしたらいいのか判らない。懇意な人が投稿していたのを思い出して聞いたら研究会の切り抜きを持っているというので、貸してもらって読んで、出掛けていった。
 地下鉄本郷三丁目から本郷通りを少し歩いて細い道、四枚のガラス戸の一枚を開けて靴を脱ぐと二間半四方の板敷き、壁一面に「詩学」のバックナンバー、机二つに椅子数脚、暖房は石油ストーブだったか、女性の速記者がいて司会の篠原さんがいて、正面に嵯峨さん。狭い座敷に上がってすぐに和式便所。私はそこで鎗田清太郎さんと初めて話をしたのだ、後に日本現代詩人会の理事会で一緒になって長年親しくさせていただいた、その始まりだった。
 篠原さんが投稿から四〇篇を選んで選者に送って来る、選者はその一〇篇ほどに一、二、三と点をつけて送り返す。当日高得点順に一〇人位を合評する。最初の会の一九八九年四月号を読み返してみたら、私はムズカシイことは黙っていて思いついた表面的なことだけ口走っていてハズカシイ、読むのやめた。投稿者の詩のテーマは内面を掘りさげたものがありレベルは私より高かった。引間徹、岡野汎など目立った名はもう見えないが、近藤久也、田中郁子、山本泰生、武西良和、新井啓子、北川朱実、青山かつ子、寺田美由記など他にも今大きくなって沢山いる。
 合評が終わるとスシが出た。うまかったが天下の嵯峨信之が出すスシだものこれ位でほめたらまずいんじゃないか、皆そう思ったらしい、だれもなんにも口もきかずにただ黙々と食べた。一度スシ屋で合評して食べたこともある。嵯峨さんは口を開けて眠っていると思えば目を開けてちゃんと的確に話す。ときには営業か、とんでもない甘い点を入れたりした。
 はじめの一年は前述べた通りだが後の一年は財部鳥子さん森原智子さんが一緒だった。財部さんは嵯峨さんのことを先生と呼んでいた、先生が皆に詩集をくださって、財部さんがサインをたのんだら、サインはしないんだよと断られた。鎗田さんと私が止めた後は池井昌樹さんと誰かが入った。ずっと後嵯峨さんが東大病院に入院したのを池井さんと私と見舞いに行ったら、嵯峨さんは専ら池井さんと話していたっけ。
 東京詩学の会は地下鉄春日駅近くの文京区の福祉センター?で二〇人位でやっていた、私も作品は出さずに出たことがある。猿田さんが亡くなってからはいろんな人がチューターをしたが最終的に佐藤正子さんがやった。後私誘われて列席して、佐藤さんが止めた後引き継いだ。その名も四月の会として「詩学」から離れたのだった。

profile

甲田四郎(こうだ しろう)

1936年東京生まれ。東京の下町で和菓子店を営みながら詩作を行う。「潮流詩派の会」、「垂線」、現代詩人会会員。1990年『大手が来る』で第23回小熊秀雄賞、2002年『陣場金次郎洋品店の夏』で第4回小野十三郎賞、2014年『送信』で第32回現代詩人賞受賞。

著書
『朝の挨拶 甲田四郎詩集』潮流出版社 1975
『午後の風景 甲田四郎詩集』潮流出版社 1982
『大手が来る 甲田四郎詩集』潮流出版社 1989
『九十九菓子店の夫婦 詩集』ワニ・プロダクション 1992
『昔の男 詩集』ワニ・プロダクション 1994
『煙が目にしみる』詩学社 1995
『日本現代詩文庫 甲田四郎詩集』土曜美術社出版販売 1996
『陣場金次郎洋品店の夏 詩集』ワニ・プロダクション 2001
『くらやみ坂 詩集』ワニ・プロダクション 2006
『冬の薄日の怒りうどん 詩集』ワニ・プロダクション 2007
『送信 詩集』ワニ・プロダクション 2013

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