詩の声をきく(一)ここではない何処かを夢見たひと/ キキ

photo by ©Kiki




ぱらぱらと指でめくって 見ている
ページのなかの人になり
水分を捨てている ふたり
心中したいという気持ちで
生きている
レストランでも
乾いて
モンキーの顔を忘れてしまう
だれかが
オレンジの皮を
夕焼けに向かって投げた

青春している

 (「ばか」 より)





亜熱帯
に放された
わたしのお姉さんはばら撒き


手で掬い手を延ばしまるで掲げて
ばら撒く
汗吸いあげる晩の月
お姉さん やあやあいいながら
風にのって
ばら撒く


飯よ
ちいさなちいさな
飯つぶよ
お膝立てたら
腐葉土の土に伏しなさい

ばら撒く よ

 (「ばら撒き」 より)





海のバス
高速に入るまえ
今からさ とばすから
ビキニ
おまえをとばすから
舞ってくれよ
おまえ ボストンバッグじゃないし
おまえ裸足なんだから
ひらひら 見せびらかしてくれよ
僕に れいけつに 赤を
しけた 海水に 見せつけて
今から手を はなすから
ビキニ
ラインのこの島に しんだ風がふいたら
僕も骨だから おまえのほそい
紐をむすんでも背中は
おまえの骨だから ほら
黒 ハイネケンのあいつが
笑って ぶはっとふきだすように
舞ってくれ ビキニ
赤を ちょうだい
しけた 胸の谷間に
あなたの 指でほそい 紐を
むすんで もいっかい すこしはかわいらしく
ひとつの輪っかを ふたつの
輪にして むすんで
そして ほどいて 高速に入るまえ
今からさ とばすから
ビキニ
僕の 女はどこにいったんだろう
だるい 空 さむい とか
ぶつぶつ文句いいながら
うらさびれた あの家の裏
シャツとパンツに着替えているのか

 (「ビキニライン」 より全文)





(次号に続く)



about

アスパラガス(1976-2012)

長崎県生まれ。享年36歳。
詩人としての活動は数年間ながら、現在もコアなファンを持つ。
舞台出演やアニメーション制作なども行い、多才ぶりを発揮。

アニメーション作品

 ブランコ

profile

キキ

1998年頃より詩作を、2002年頃より朗読を始める。
ときどきイベントのスタッフをしたり、プロデュースなども行っている。

→HP さかなのまつり

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essay
詩の声をきく

安藤春菜

山之口貘の生きる位置 〜貘の詩からその「かたち」をみる〜

キキ

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午後、スケートリンクで/アスパラガス(後)